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: 藤原定家 詠花鳥和歌 各十二首 :



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●正月: 柳竹に鶯

うちなびき春くるかぜの色なれや
 日を経てそむる青柳のいと

春きてはきう夜も過ぎぬ朝といでに
 鶯なきゐる里の村田竹


●如月: 桜に雉

かざしをる道行人のたもとまで
 桜に匂うきさらぎの空

かり人のかすみにたどる春の日を
 つまどふ雉のこゑにたつらん


●弥生: 藤壺に雲雀

ゆく春のかたみとやさく藤の花
 そをだに後の色のゆかりに

すみれさくひばりの床にやどかりて
 野をなつかしみくらす春かな


●卯月: 卯花に郭公

白妙の衣ほすてふ夏のきて
 かきねもたわにさける卯花

郭公しのぶの里にさとなれよ
 まだ卯の花のさ月待つ比


●皐月: 橘に水鶏

郭公なくやさ月のやどがほに
 かならず匂う軒のたちばな

まきの戸をたたくくひなの朝ぼのに
 人やあやめの軒のうつりが


●水無月: 撫子に鵜飼

おほかたの日影にいとふみな月の
 空さえをしきとこなつの花

みじか夜のう河にのぼるかがり火の
 はやくすぎ行くみな月の空


●文月: 女郎花に鵲

秋ならでたれにあひみぬをみなえし
 契やおきし星合の空

ながき夜にはねをならぶる契とて
 秋待ちたえる鵲のはし


●葉月: 萩に雁

秋たけぬいかなる色と吹く風に
 やがてうつろふもとあらの萩

ながめやる秋の半もすぎの戸に
 まつほどしきる初かりの声


●長月: 尾花に鶉

花すすき草のたもとの露けさを
 すてて暮行く秋のつれなさ

人めさへいとどふかくさかれぬとや
 冬まつ霜にうずらなくらん


●神無月: 残菊に鶴

神な月しも夜の菊のにほはずは
 秋のかたみになにをおかまし

ゆふ日影むれたつたづはさしながら
 時雨の雲ぞ山めぐりする


●霜月: 枇杷に千鳥

冬の日は木草のこさぬ霜の色を
 はがへぬ枝の色ぞまがふる

千鳥なくかもの河せの夜はの月
 ひとつにみがく山あゐの袖


●師走: 早梅に鴛鴦

色うづむかきねの雪の花ながら
 年のこなたに匂ふ梅がえ

ながめする池の氷にふる雪の
 かさなる年ををしの毛ごろも


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