ホーム > 茶道手帳 > 茶道具 イロハ  > :茶道具イロハ5:象牙とラクトと樹脂 (茶入の牙蓋) :

:茶道具イロハ5:象牙とラクトと樹脂 (茶入の牙蓋) :

▼ 旧ブログ 記事:2009/05/04 11:38 からの転載 ▼

象牙

今回は、茶入の「牙蓋/げぶた」について です。

例えば、紙箱入の茶入をお求めの際、
箱の中に、「ラクト蓋」という紙が入っていたことがありませんか?

試しに「ラクト(lacto)」という語を、Yahoo!辞書でひいてみると、
説明には「=乳(lactoprotein=乳たんぱく質)」と出てきます。

そうです。ラクト蓋とは、
乳たんぱく質を素材とした、「人工象牙」のことなのです。

ラクト蓋は、非常によく出来ています。
本象牙のように、マーブル模様が浮き出ています。
模様を描いているのではなく、質感も 象牙にかなり近いです。

(写真:左が「ラクト蓋」右が「樹脂蓋」中央が本象牙の「牙蓋」)

いわゆる「樹脂蓋」は、単に色が象牙色をしているだけで、
ラクトのようなマーブル模様はありません。
(仮に お茶入自体が同じ物だとしたら、樹脂蓋よりも、もちろんラクト蓋の方が
お値段がします。)

一見、非常によく出来た「ラクト蓋」ですが、
象牙と見分けるための ポイントがあります。

●マーブル模様に、対称性・機械的連続性 が認められる。
●光線を反射させると、象牙は 薄い繊維質が浮き出てくるのに対し、
ラクトはマーブル模様だけである。

象牙は、人間の指紋と同じですので、
決して マーブルが、規則正しく しかも左右対称に走ることはありません。
それに対し、ラクトは、あまりに模様がキレイに連続しすぎています。
見慣れてくると、両者の違いは、一目瞭然です。

古い上質の象牙には、上記の繊維質の他に、
「窠/す」と呼ばれる、いわば繊維の疵が 黒く一本(時に複数)縦に走っている
場合があります。
本来は疵ですので、象牙自体の質からみれば、欠点なのですが、
茶道具に共通する「不完全の美」でしょうか?
絶妙のバランスで入っている「窠/す」を、古来 茶人は愛してきました。

茶杓を載せないサイドに、この「窠」をもってくることが、
いわば「約束」であり、
きちんとした茶道美術館では、この「窠」の向きを、ちゃんと統一して展示してあります。

(まれにバラバラの時は、よほど展示替に慌しかったのかな?とか、
心得のない人が触ったのかな? とか、そんな見方も楽しいです……)

条約の規制緩和により、象牙の値段の一時ほどは高騰していない昨今ですが、
まだまだラクトの技術は進歩するのではないでしょうか?

でも、やはり本物の象牙の質感には、
いつまで経っても 及ばないことでしょう。

http://seiyudo.ocnk.net/product-list/52


●お道具イロハ●
ふだん何気なく やり過ごしている、お道具の基礎知識・豆知識を、もう一度ふり返るべく、
ワタクシ 石橋静友堂が、独断と偏見と早トチリで、一刀両断に解説しちゃうコーナーです。