▼ 旧ブログ 記事:2009/04/01 13:00 からの転載 ▼
さて、今回は、<写・ウツシ>という語句について、振り返ってみましょう。
《お道具イロハ1》で書きました、仁清<写>・乾山<写>には、
狭義の意味と、広義の意味と、二つあります。
狭義:実際に、仁清や乾山の作品 (すなわち「本歌」) があり、
それを再現しようと目論んだもの。
広義:その作風にちなむもの。すなわち 「仁清風の」 「乾山が描いたかのような」。
こと 「仁清」「乾山」に限っていうと、<写>という商品名だからといって
本歌がどこかに存在するとは 限りません。
あまりに二人の存在が偉大すぎて、「代名詞」になっているのです。
(何が「仁清写」で、どんなものが「乾山写」か。は、《イロハ1》をご参照ください。)
ちなみに、<写>の<写> なんてのもあります。
「仁清の本歌を、永楽家が写した」ものの<写>とか……。
さて。
<写> と全く同じ意味の言葉に、
<倣・ナラウ> と <摸・マネル> があります。
これは、「写す だなんて、おこがましい……。ナラワせてもらっているだけだ」 という
作家さんの 謙遜した言い回しです。
「とても 本歌ほどの存在には なりえませんよ」という。
ところで。
「名物茶入」の<写>を巧みにされる方に、笹田有祥さんがいらっしゃいます。
有祥さんは、また、仁史さんという ご本名でも、
同じように作品を焼いておられます。
どちらも、素敵な作品です。
http://seiyudo.ocnk.net/product-list/54
ちょっと お道具の世界のヤヤコシイ所なのですが……、
ご本名の物と、号での作品と、お値段が違う場合があります。(というか、明らかに「違い」ます。)
どちらが 高いかは、その作家さんによります。
周知の通り、○○作と○○窯作の場合は、「窯作」の方が、断然 安価となります。
「窯作」は、あくまで「工房」の作品ですので。
また、「別号」が、一人歩きし、あたかも そういう名前の作家が現存するかのような
ストーリー(作歴) ができてしまっている場合もあります。
いわく ○○の弟子だとか、○○の分家筋だとか、○○の弟だとか。
作り手や売り手が意図していなくても、いつしかストーリーが出来上がり、
それが「常識」になっている場合があります。
(○○焼・○○窯を「再興」した というパターンもありますね……)
過度に作者の名前に囚われてはならないという、警告かもしれません……。
いい作品・好きな作品は、誰が何と言おうと、誰が造ったものであろうと、
「いい」「好きだ」……それでいいのかも、しれませんね?
1左: (「摸 堅田肩衝 茶入」:笹田有祥 :桐箱)――本歌:中興名物 唐物
1右: (「槍の鞘 写 茶入」:笹田仁史 :桐箱)――本歌:大名物 古瀬戸
2左: (「早船 写 赤楽茶碗」:佐々木昭楽(別作) :桐箱)――本歌:楽初代 長次郎 作
2右: (「ムキ栗 写 黒楽茶碗」:佐々木昭楽 :桐箱)――本歌:楽初代 長次郎 作
3左: (「荒磯 写 黒楽茶碗」:佐々木昭楽 :桐箱)――本歌:楽3代 のんこう 作
3右: (「雨雲 写 黒楽茶碗」:佐々木昭楽 :桐箱)――本歌:本阿弥光悦 作
4左: (「保全 写 日の出鶴 茶碗」:上山善峰 :紙箱)――(大元の)本歌:野々村仁清 作
4右: (「初代長左衛門 造 仙叟好 写 飴釉渦文茶碗」:久楽弥七 :桐箱)――本歌:初代 大樋長左衛門
※「別作」とは、特別作・上作のことで、土・釉・焼きも違えば、箱の体裁・窯印まで 通常作と異なる作のことです。
http://seiyudo.ocnk.net/product-list/47
●お道具イロハ●
ふだん何気なく やり過ごしている、お道具の基礎知識・豆知識を、もう一度ふり返るべく、
ワタクシ 石橋静友堂が、独断と偏見と早トチリで、一刀両断に解説しちゃうコーナーです。